第二回 食道発声の達人



声を失って  樽谷 信行(S24生)

H19.7 単純喉摘
中級:6ヶ月/上級:1ヶ月

 平成19年7月25日、喉頭がんの摘出手術をしました。まさか、自分が声を失うなんて、想像もしませんでした。
 手術の前に病院の先生から
「皆さん、練習によって言葉を取り戻していきますよ。ある人を紹介しますので会ってください。」
 そして、手術の前日、阪喉会の指導員の先生を紹介されました。
 指導員の先生から
「声は取り戻せます。いっしょに頑張りましょう。」
と勇気づけられ、9月より練習に参加しました。
 まず、驚いたのは、皆さんがとっても明るいことでした。大変な病気のあととは、とても思えませんでした。
 ラッキーなことに、その時、いっしょに練習を始めた仲間が大変楽しい連中で、毎回参加するのが、楽しくてしかたがありませんでした。
 練習は、指導員の先生のおっしゃる基本が一番だと思います。基本をしっかりやることが上達の早道だと思います。

 仕事に復帰すると、自分の言葉が理解されなくて悩んだ時もありましたが、恥ずかしがらず積極的に行動すれば解決します。
 私が言葉の重要なことに気が付いたのは、話すことでまわり(の方)が、健康になったと大変喜んでくれたことです。黙っていると、(まわりの)皆もどうしていいか分からなかったそうです。
 今は、手術前のように普通に接しています。

 話は変わりますが、我が家には鬼の指導員がいます。
 私の妻です。非常に仲のいい夫婦ですが、練習は厳しいものでした。
「お父さん、電話、鳴ってるよ。」
「お父さん、玄関にお客さま。ちょっと出てくれる。」
 買い物に行くと、
「焼肉のタレ、何処にあるか聞いて来て。」
 レストランでは、
「トイレに行くから、注文しておいて。」
 とにかくしゃべらないと、生きていけない状況でした。
 おかげで、今では、なんとか普通に生活できるようになりました。

 残念なお知らせですが、今年2月のPET検査で、肺にがんが見つかりました。
 現在、抗がん剤治療を受けていますが、家族や友達の励ましで、毎日頑張っております。
 1ヶ月のうち、入院10日、仕事10日、家内との思いで作りに10日とローテーションを組んで過ごしています。
 まわりの気配りに感謝しながら、毎日楽しく過ごしています。

 病気は大変ですが、気持ちの持ち方で、元気に暮らせます。
 今は、この時間が、長く続くことを願っています。


※収録コメント:クーラーの音とスタッフの咳き込む音を拾ってしまったのでBGMを流すことにしました。
 それと、原稿内容に沿ってカット割をしたかったのですが、時間的余裕がなく、できれば再録したいところですが。