佐藤武男著「食道発声法」より |
成人病対策−100歳長寿のために |
喉頭がんの治療後は、終生、経過観察をしてもらうべきである、と著者は考えている。
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まず術後の1年間は月2回、その後4年間は月1回の検診を受ける。さらにその後は年数回の検診を受けに行く。最初の5年間の検診は頚部リンパ節の再発に重点がおかれるが、5年経過後はさらに成人病の早期診断と早期治療と、とくに新たに発生するがん(これを重複がん、あるいは多重がんという)の早期発見に重点が移る。この目的のために、年1回は全身の総合的な検査を受ける。
喉頭がんを克服した人々の重複がんを合併する頻度は、著者が治療した症例群の観察では、15年経過観察では30%、20年経過観察では50%の高率にみられた。とくに1日の喫煙本数が30本以上のヘビー・スモーカーであった人々に高率で、第2がんの発生部位は口腔、咽頭、食道、肺、膀胱などで、これらはタバコ関連がんなのである。
このように高率である理由は、「喉頭がんはよく治るがん」に属し、長寿が得られるためで、著者の成績では図3-1のごとく5年生存率80%、10年生存率73%になっている。
喉摘者の平均年齢は60歳代後半であるので、ほとんどの人々は老人に属している。この老いを背にして、あるいはこの重い老いを噛みしめながら、障害者として第2の人生を歩まなくてはならない。
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老いの実際について記すと、次に述べるいろいろな不自由さが実感させられる。老眼鏡を使っても不自由になり拡大鏡が必要となる、難聴が進みテレビの音を大きくするので孫に叱られる、歩行のスピードがにぶり若い女の子に追い抜かれる、駅の階段の昇降がきつい、足腰が弱くなった、腰痛がある、便秘気味だ、眠りが浅い、不眠傾向、夜間何回もトイレに行く、固有名詞を忘れる。
このようないろいろなことができなくなったり、不自由になる。孤独のなかで、これらの老いを確かめては納得し、「自然に老いよ」とつぶやきながら耐えねばならない。
この老いに耐える方法として、自分に最も適した生活リズムを確立し、これを生涯にわたって守護してゆくべきだが、このリズムを維持するには強い精神力がいる。
この生活リズムを頑固に守りぬくことによって長寿が与えられるのである。基本的には快眠、快食、快便が必要条件であることは老いも若きも同じである。
夜になれば眠る、また朝が来る、そう思って入眠する。朝になる、今日は何と何をしよう、そう思ってとび起きる。くよくよと過ぎたことを考えない。服を着る、朝食をとる、散歩に出かける。カントの如く、リズムをかたくなに守る。
家人とよく語らい、多くの友人と談笑する。積極的に社会参加をし、定時的にボランティア活動にも従事する。人様のためになっているという実感は生きがいとしてわが心の孤独を癒してくれよう。
運動には散歩がよい。ともかく家にじっとしていないで外に出る。1日最低1時間以上歩く。街々の光景、自然の風景などを愛でながら、ともかくも歩く。
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ライフスタイルの変容に心がける。畳の上にゴロッと横にならない。これがネタキリ防止の最低条件である。ベッド、洋式便所への改良、暖房の工夫なども大切である。住居内につまづく場所があれば改築する。風呂、便所、廊下などに手すりをつける。こけない工夫、つまづかない工夫を常に考え続ける。こけて骨折(とくに大腿骨頸部骨折)が起これば、しばしばネタキリになり痴呆に発展することがある。
健康管理として、タバコは吸わない、サケは少量飲むほうがよい、血圧を正常範囲にコントロールする、入歯は必ず整合しておく、偏食しない、淡白な食餌、腹八分目。成人病があれば生涯にわたってコントロールを続ける。そのためには信頼するホームドクターと親密な人間関係を作っておく。
変調があれば、専門医を受診し、早期診断、早期治療をしてもらう。なんらの成人病もなくて長寿を得る人は運のよいほうで、ほとんどの人は成人病を克服して長寿を得るのである。すでにがんを克服して百歳長寿を得た人もいる。「成人病を克服して百歳まで行きぬこう」という言葉を合言葉にしよう。
「100歳まで生きる」という言葉は現代人にとって夢でなくなった。日本ではすでに約5,000人(1993年)の100歳長寿の方がおられる。人口10万の町には3〜4人生きていることになる。著者は「がんを克服して100歳まで」という言葉を流行させようと努力している。実際に著者の治療した喉摘者のなかから、100歳長寿を果たした人が2名、99歳長寿の人が2名も出た。この事実は多くの喉摘者にとって福音となっている。
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(編集子註)イマヌエル・カント(Immanuel Kant, 1724年4月22日 - 1804年2月12日)
プロイセン王国出身の思想家で大学教授である。近代において最も影響力の大きな哲学者の一人である。『純粋理性批判』、『実践理性批判』、『判断力批判』の三批判書を発表し、批判哲学を提唱して、認識論における、いわゆる「コペルニクス的転回」をもたらす。ドイツ観念論哲学の祖でもある。
カントは規則正しい生活習慣で知られた。早朝に起床し、少し研究した後、午前中は講義など大学の公務を行った。帰宅して、決まった道筋を決まった時間に散歩した。あまりに時間が正確なので、散歩の通り道にある家では、カントの姿を見て時計の狂いを直したと言われる。 |
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より
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(編集子註)100歳以上の高齢者人口
日本国内の100歳以上の高齢者人口は、平成元年には日本全体でわずか「3,078人」(男性:630人、女性:2,448人)しか存在しなかったものが、平成19年には日本全体で「32,295人」(男性:4,613人、女性:27,682人)となり、わずか20年ほどで総数10倍以上になりました。
※関連:同時期の日本人の平均寿命(厚生労働省「簡易生命表」)は、平成元年には男性:75.91歳、女性:81.77歳だったものが、平成19年には男性79.19歳(+3.28歳)、女性85.99歳(+4.22歳)となっています。 |
http://www.office-onoduka.com/nenkinblog/2008/08/1910100.html より
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(編集子註)成人病
厚生省(現厚生労働省)が「成人病予防対策連絡協議会」において、脳卒中(脳血管疾患)、癌(がん)(悪性新生物)、心臓病(心疾患)など中年から老年期にかけて多発する重要疾患をさして「成人病」としたのが始まりとされている。
さらに71年、世界保健機関(WHO)が糖尿病を成人の重要疾患として取り上げて以来、公衆衛生活動としては糖尿病も成人病の一つに加えられた。しかし、死亡統計上は脳卒中、癌、心臓病の3疾患と高血圧性疾患、老衰(精神病を伴わないもの)などとされた。
1997年(平成9)厚生省は公衆衛生審議会(現厚生科学審議会)の提言を受け、成人病の呼称を生活習慣病と改めている。 |
「Yahoo!百科事典」より
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