笛式人工喉頭発声習得の早道
- 発声練習ポイントの最近の変化 -
公益財団法人 阪喉会 笛式教室責任者 上西 洋二(理事長)
代用音声の中で,電動式 笛式(以下「笛」と略称)等の人工喉頭は原音(単音)が最初から出るので習得が容易であり,多く使用されています。しかし、原音は出ても日常生活に支障のない会話が出来るまでにはやはり練習を重ねることが必要なことはいうまでもありません。
笛の練習は先ず
(1)笛を口に入れないで気管口に当てて原音を長く続けて発声する練習の後
(2)口の中に唾が溜まらないように、発生の間には唾を呑み込みながら「アー」という長音を繰り返して連続して出すのを練習し、これが出来れば
(3)長音「アー」の代わりに単語を発声するのを練習する。これが出来れば
(4)単語を続けて発生するという考えで文章を喋る
という順序をとれば、楽に早く習得できるのであり,阪喉会はこの方法で発声指導を行い,成果をあげています。(五十音の発声練習は原則として行いません。
編集者註:最近は構音器官に損傷を受けた方(例えば手術で、舌を半分または全部切除した方とか、硬口蓋および軟口蓋を部分切除(硬口蓋は病巣部分を削り取る)した方等)がいらっしゃって、五十音をすべて正確に発声すること自体に無理があり、五十音練習をしても意味がなく、かえって、やる気を阻害する要因になります。)
編集者註 硬口蓋は嚥下時に舌が強く押し当てられて食塊を咽頭に送る補助をしていると言われています。その他に食塊の物性を判断しているとも言われています。対して軟口蓋は咽頭に送られた食塊が鼻腔に行かないように鼻腔と咽頭腔を遮断する役割をしています。その他にも軟口蓋は発声時に呼気が鼻に抜けないように鼻腔と咽頭腔を遮断することもしています。また、口腔の形が変わること自体が発声(構音)に影響します。
さて、笛で先ず音を出すには,気管口から出る空気が出来るだけ多く笛に入るのが望ましく、笛の「あてざら」が気管口に出来るだけ密着するようにして発声する練習を奨めておりました。
しかし、手術の結果気管口の周囲の皮膚に凹凸がある方、気管口からカニューレが突出している方等のように、「あてざら」を気管口に密着することが困難なことも多くあります。
気管からの空気が全部笛に入ることが出来なくても、とにかく空気が笛に入れば、それ相応の音は出るわけで、個人により異なる状況に応じて工夫して出来るだけ多くの空気が入るように練習すればよいと考えております。
このために,笛の「あてざら」を気管口に密着させる為に,「あてざら」を高価なゴム製にするようなことまでは,必要はないと考えます。
また、最近息を長く吐き続けることが出来ない方々が多くなったようにおもいます。食道移植あるいは他の病気の併発により入院生活が長く発声出来ない期間が長く続いたため、日常生活の中でも発声に必要な長く息を吐く癖が無くなったことに依るものではないかと思います。
また、高度な手術による体力の低下、老齢化により加齢による体力の低下の大きい方々が多くなっていることも大きな原因であると思います。
このような方々には、深呼吸を繰り返し練習するなど長く息を吐き続ける練習を特別にすることが大切で早道です。
次に、笛を連続して発生するのに障害となる口の中に唾が溜まることの対策として、唾を発声の間に飲み込むことが必要です。最近高度の手術のため食道が細くなったり、唾を呑み込むのに大切な舌を摘出したため、唾を呑み込むことが難しくなった方も多くなっています。唾は「チュッ、チュッ」と吸うのではなく、「ゴックン」と呑み込むことが出来れば上々です。これも、唾を呑み込むことを特別に練習するのが早道です。
「息を長く吐き続ける」「唾を呑み込む」というようなことは、練習すれば次第に出来るようで、短気を起こさず、時間をかけて少しでも良くなるように、考えて練習すれば、気分も楽になり成果が上がるようです。電車の中でも、歩いていても練習できる筈です。
昔に比べて、手術も高度化し、老齢化により加齢の影響も大きくなっています。それぞれ自分の体の状況を認識し、弱点を補う重点的な練習を行うことが、楽に早く上達する秘訣です。
「百聞は一見にしかず」と申します。どうか、練習しても十分成果の上がらない方はご遠慮なく阪喉会の発声教室にご参加下さい。
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(平成25年6月発行「阪喉」第60号より)
※平成29年1月末:住之江区⇒西区へ引越し