(03-06)

3−6 解説−喉頭がん  (主参照・引用 http://ganjoho.jp/public/cancer/data/larynx.html

喉頭と咽頭の位置

 ☆日本語の「のど」は一般的には頸部、咽頭、喉頭の意味を持つ。



喉頭の役割
@ 発声機能  左右の声帯の閉鎖と肺からの呼気(吐き出した息)により声帯を振動させて発声する
A 気道確保  空気の通り道(気道)の確保
B 誤嚥(ごえん)防止  食物の気管内への流入の防御



喉頭がんの症状
区 分 症 状 症状が確認される場合
 声門がん  嗄声(させい:声がれ)ー>呼吸困難、血痰 早急に専門医を受診!
 声門上がん   食物を飲み込んだ時の痛み、いがらっぽさ、異物感 
 −>耳に放散する痛み−>嗄声(させい)−>呼吸困難
 声門下がん  無症状(発見が遅れがち)



3−6−1 喉頭がん

(1)喉頭がんとは

 喉頭はいわゆる「のどぼとけ」(甲状軟骨先端)に位置しており、内面が粘膜でおおわれた箱のようなものです。

 喉頭は、左右の声帯の閉鎖と肺からの呼気により声帯を振動させる発声機能の他に、喉頭全体の機能として空気の通り道(気道)の確保と、食物の気管内への流入の防御(誤嚥防止:ごえんぼうし)の機能を有しています。喉頭がんが進行するとこれらの喉頭の機能障害を引きおこします。

 喫煙および飲酒によって、確実に喉頭がんのリスクが高くなります。禁煙と飲酒はそれぞれが別々に、または双方が相乗的に働いて、喉頭がん発生のリスクを確実に高くします。その他、アスベストなどの職業性の曝露(ばくろ)との関連が指摘されています。

 発生部位では、声門(声帯)に発生するがんが60〜65%を占め、声門上は30〜35%で 、声門下は極めて少なく1〜2%です。喉頭の内面は線毛上皮で気管に連続していますが、声帯だけは扁平上皮におおわれています。喉頭がんはほとんど扁平上皮がんですが、たばこ、酒などの継続的刺激が発がんに関与するといわれています。

 喉頭がんも他のがんと同様に早期発見が非常に重要です。喉頭がん全体の治癒率は約70%と頭頸部がんの中でも高い治癒率ですが、早期に発見すれば音声を失うことなく治癒することが可能です。そのため最近では、喉頭がんの早期発見を目的とした音響分析による検診なども試みられています。




(2)症状

 がんの発生部位により最初の症状は異なります。最も多い声門がんでは、ほぼすべての方に嗄声(させい:声がれ)がみられます。この嗄声は雑音の入った、ざらざらした、かたい声です。1ヶ月以上嗄声が持続する場合は、早急に専門医を受診することが大切です。がんが進行すると嗄声はさらにひどくなり、声門が狭くなって息苦しいなどの呼吸困難症状があらわれてきます。同時に痰に血液が混じることもあります。

 声門上がんの初発症状は、食物を飲み込んだ時の痛み、いがらっぽさ、異物感などです。また、次第に耳に放散する痛みが出現してきます。がんが進行して声帯に拡がると嗄声が出現し、さらに進行しますと声門がんと同様に呼吸困難などの症状を示します。声門下がんの場合は、進行するまで無症状であるため、発見が遅れがちとなります。

 喉頭にがんなどの所見がなく嗄声が持続する場合は、甲状腺、食道の精密検査を行うことが大切です。

 声門がんは頸部のリンパ節転移が少ないのに対し、声門上がんではリンパ節転移を多く認めます。まれに頸部リンパ節のはれが初発症状で病院を受診し、声門上にがんが発見されることもあります。これは、声門がんでは自覚症状が早期より出現するため、早期に発見される場合が多いことの他に、喉頭の構造的特徴によると考えられます。




(3)検診

 喉頭がんの診断は、耳鼻咽喉科を受診した時に行われる視診と、生検と呼ばれる病変の一部を採取して行われる組織診断により確定されます。

 視診は、口腔内に喉頭鏡という小さな鏡を入れて、「えーっ」、「いーっ」などの発声をしながら喉頭内を観察し、腫瘍性病変の有無をみますが、咽頭反射が強い(舌をひっぱられるとゲェーッとなる)など所見のとりにくい方には、鼻から細いファイバースコープを挿入して観察します。

 組織診断は施設により多少方法が異なりますが、咽頭、喉頭を局所麻酔剤で麻酔して咽頭反射を抑制した後、太いファイバースコープを用いて細かな部位まで観察し、次いで鉗子(かんし)により病変の一部を採取します。これを病理医が顕微鏡で見て、がんかどうかの診断を行います。病変の採取は全身麻酔下で行われることもあり、その場合には入院が必要です。組織診断は、通常1週間前後で結果が出ます。

 がんの進行範囲を把握するためには、視診による直接的な観察の他に、レントゲン撮影による検査が必要となります。この検査は見えにくい部位、深部への進展の程度を判断する上で非常に有用です。頸部正面、側面撮影の他、頸部の断層撮影、CT、MRIなどの検査を行います。

 また、声帯の振動様式により喉頭の病気を診断する喉頭ストロボスコピーと呼ばれる検査を行うこともあります。




(4)病期(ステージ)

 原発巣はがんの進展の程度により、1〜4の4段階に分類されます(T分類)。声門がんでは、T1はさらにaとbに分類されます。頸部リンパ節は大きさ、個数によって大きく0〜3の4段階に分類されています(N分類)。

 通常は、T、Nと遠隔転移の有無(M分類)を総合判断して病期を決定します。この病期は4分類されています。



病期(ステージ)
T期  がんが1亜部(喉頭とさらに小さい単位に分けたもの)にとどまっている状態。 早期がん
(全体の64%)
U期  喉頭内の隣接亜部位まで進展しているが、喉頭内にとどまっている状態で、頸部リンパ節転移も遠隔転移もしていない。
V期  声帯が全く動かなくなったり、3cmより小さい頸部リンパ節転移を1個認めるが、遠隔転移はしていない。 進行がん
W期  がんが喉頭を越えて咽頭や頸部に進展する、頸部リンパ節転移が多発する、あるいは転移リンパ節が6cm以上となる、またはがんと反対側の頸部リンパ節に転移する、遠隔転移を認めるといった状態。

※亜部:喉頭(内)を細分化した単位。
※1997年の全国集計では、I期:40%、II期:24%と早期がんが過半数を占めています。



(5)治療

 原発巣の治療は、 放射線療法 (体外から照射する)と外科療法が2本の柱となります。抗がん剤による化学療法は、喉頭を温存するために放射線療法、外科療法に先立って施行されるか、手術不可能な場合、再発で他に治療法のない場合などに行われてきました。

 しかし、最近は従来標準治療として喉頭全摘出が行われていた症例に対しても、放射線と多剤化学療法との同時併用治療を行い、喉頭の温存をはかる治療も行われています。

 外科療法は、がんの原発部位の周辺だけを切除する喉頭部分切除術と、喉頭をすべて摘出する喉頭全摘出術に分けられます。多くの場合、喉頭部分切除術は早期がんに、喉頭全摘出術は進行がんに施行されます。

 放射線療法や外科療法でも治癒する可能性がある場合の治療の選択は、年齢、全身状態、職業などを考慮した上で、それぞれの治療の長所、短所を十分説明して決定します。

 頸部リンパ節転移に対する治療は、一側または両側の耳後部から鎖骨までの範囲のリンパ組織を含んだ部分を切除する頸部郭清術(けいぶかくせいじゅつ)ですが、切除不可能な場合は放射線療法を行うことがあります。

以上出典:「国立がんセンターがん対策情報センター」  




音響分析

 喉頭疾患に起因する病的音声の工学的手法を用いた客観的評価方法の一つとして、音響分析を利用した評価方法があるが、臨床場面で充分な精度を得ることが難しいのが現状である。



喉頭ストロボスコピー

 喉頭ストロボスコピーは、声帯振動の可視化を行うための方法の一つで、音声の基本周波数よりわずかに少ない回数で光源を喉頭近傍で発光させることで、声帯振動を間引いて観測する手法である。本手法により声帯振動を観測すると、あたかも声帯振動をスローモーション画像のように観察することができる。実際の喉頭ストロボスコピーによる声帯振動の評価は、目視により行うため専門的な知識が必要となる。




3−6−2 喉頭がんの病期(ステージ)

 UICC(国際対がん連合)は、TNM分類による病期決定を指定している。



TNM分類
 T
(1〜4)
 原発腫瘍の状態
 N
(0〜3)
 所属リンパ節転移の状態
 M
(0、1)
 遠隔転移の状態(有無)



原発腫瘍(T)
声門上部 T1  声帯運動正常で声門上部の1亜部位に限局する腫瘍
T2  喉頭の固定がなく、声門上部の他の亜部位、声帯または声門上部の外側域(たとえば舌根粘膜,喉頭蓋谷、リンパ節上感応の内側壁など)の粘膜に浸潤する腫瘍
T3  声帯が固定し喉頭に限局するものおよび/または臨床後部,喉頭蓋前方の組織,舌根の深部のいずれかに浸潤する腫瘍
T4  甲状軟骨を破って浸潤する腫瘍および/または頸部軟部組織、甲状腺、および/または食道に浸潤する腫瘍
声門 T1  声帯運動正常で(一側)声帯に限局する腫瘍(全連合または高連合に達していても良い)
T1a  一側声帯に限局
T1b  両側声帯に浸潤する
T2  声門上部および/または声門下部に進展するものおよび/または声帯運動の制限を伴う
T3  声帯が固定し喉頭内に限局する
T4  甲状軟骨を破って浸潤する腫瘍および/または喉頭外すなわち気管,頸部軟部組織,甲状腺,咽頭に浸潤する
声門下部 T1  声門下部に限局する
T2  声帯に進展しその運動が正常か制限されている
T3  声帯が固定し喉頭内に限局している
T4  輪状軟骨あるいは甲状軟骨を破って浸潤する腫瘍および/または喉頭をこえて他の組織すなわち気管,頸部軟部組織,甲状腺,咽頭,食道に浸潤する腫瘍



所属リンパ節転移(N)
N0  所属リンパ節の転移を認めない
N1  同側の単発性リンパ節転移で最大径が3センチ以下
N2  同側の単発性リンパ節転移で最大径が3センチを超えるが6センチ以下、または同側の多発リンパ節転移で最大径が6センチ以下、または両側あるいは対側のリンパ節転移で最大径が6センチ以下
N2a  同側の単発性リンパ節転移で最大径が3センチを超えるが6センチ以下
N2b  同側の多発リンパ節転移で最大径が6センチ以下 
N2c  両側あるいは対側のリンパ節転移で最大径が6センチ以下
N3  最大径が6センチを超えるリンパ節転移



遠隔転移(M)
M0  遠隔転移を認めない
M1  遠隔転移あり 



病期分類の定義
T期 T1N0M0  1亜部位に限局する腫瘍
U期 T2N0M0  喉頭内の隣接亜部位まで進展しているが、喉頭内にとどまっている状態で、頸部リンパ節転移も遠隔転移もしていない
V期 T3N0M0、
T1−3N1M0
 声帯が全く動かなくなったり、3cmより小さい頸部リンパ節転移を1個認めるが、遠隔転移はしていない
Wa期 T1−3N2M0、
T4aN0−2M0
 がんが喉頭を越えて咽頭や頸部に進展する、頸部リンパ節転移が多発する
Wb期 T4bN0−2M0、
T1−4N3M0
 転移リンパ節が6cm以上となる、またはがんと反対側の頸部リンパ節に転移する
Wc期 T1−4N0−3M1  遠隔転移を認める




UICC(Unio Internationalis Contra Cancrum, International Union against Cancer,国際対がん連合)

 がん克服のため国際的に連帯し運動する民間組織である。1933年の結成以来、癌研究や対がん運動の振興、がん知識の普及、フェローシップの運営、国際的統計の作成、世界共通のがん診断法や分類法の設定など様々な活動を展開して来ている。





3−6−3 頸部郭清

 進行癌では、頸部リンパ節転移を伴っていることが多いため、リンパ節と周囲の組織を含めて摘出する頸部郭清術が同時に行われることがあります。術後の後遺症として、肩こりのような頸部の違和感や腕を上げにくくなることがあります。

 胸鎖乳突筋(頸部にある筋肉の一つ、首を曲げ、回転させる働きを持つ)、副神経を含めて郭清した場合、頸、肩、上肢などの運動制限が生ずることがあります。

 甲状腺も含めて郭清した場合、永続性の甲状腺機能低下症となり、生涯、甲状腺ホルモン補充薬の服用が必要です。また、副甲状腺(上皮小体:甲状腺の裏に4つある)も併せて郭清した場合、副甲状腺機能低下症となり、ビタミンD、カルシウム剤等の服用が必要になります。